炎上する学生。「誰にも甘えられない環境」とは
ある大学の商学部に通う佐々木隆介君のインタビュー記事がTwitterで炎上しているよう。
「誰にも甘えられない環境に身を置きたかった」という彼。しかし、ツッコミはその仕送り額と家賃に集中している。
彼の生活費の主な収入は親からの仕送り13万円であり、主な支出は家賃7.5万円と、なんとなく”高い”という印象を持つものであった。
誰にも甘えられない環境に身を置きたかった
_人人人人人人人人_
> 仕送り13万 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄ pic.twitter.com/MUdOFypiE5— しゅどーさん (@s1y2u3d4o) 2017年2月5日
彼が批判され炎上している理由は”仕送りが高い”から、”誰にも甘えられない環境”などと言っても、実際金銭的に甘えているではないか!というものであろう。
実際僕個人としては、いわゆる旧帝大のひとつの国立大学に進学し、一人暮らしをさせてもらっていたのだけれど、月の仕送りは9万円で家賃は4.5万円であった。うちの家のルールは4.5万円の家賃+1日の食費500円×3回×30日=9万円という決まりであった。そして、東京に進学していた兄については、5.5万円の家賃+1日の食費500円×3回×30日=10万円と、地方により差がつけられていた。
そういう意味では個人的な感覚としては、彼は随分と恵まれていて”甘えられている環境”であるな、と感じた。
しかしそれはあくまで個人的な感覚に過ぎない。では、大学生の平均仕送り額や家賃というのはどういうものなのだろうか。
マンション住み私大生の平均仕送り額はいくらなのか
まず、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)という奨学金や留学などに関する学生支援業務を行う法人が隔年で調査している数字があるので見てみる。
学寮 | ||||
国立 | 公立 | 私立 | 平均 | |
仕送り額 | 628,300 | 829,500 | 1,398,400 | 1,237,800 |
月平均 | 52,358 | 69,125 | 116,533 | 103,150 |
下宿、アパート、その他 | ||||
国立 | 公立 | 私立 | 平均 | |
仕送り額 | 1,151,600 | 987,800 | 1,659,100 | 1,454,500 |
月平均 | 95,967 | 82,317 | 138,258 | 121,208 |
出所:平成28年度学生生活調査(独立行政法人日本学生支援機構)
今回の佐々木君はちょっとググったところ、まぁ都内私大なようです。マンション住みだそうなので、「下宿、アパート、その他」で「私立」というところに当てはまります。ということは、月の平均は 138,258円 ということだそうだ。
そう見ると「ん?13万円ってそう高くない平均値?」と思う。
なんなら「この平均値が全国のもので、彼は東京在住なので家賃も高いだろうし、むしろ平均よりも安いほうなんじゃないか?」とまで思えてしまう。
しかし、この調査にはひとつトリックがあった。授業料の取り扱いである。
学生生活調査は収支を計算しているため、授業料は学生生活の支出として捉えており、この仕送り額などを元にした収入から学費が支払われる前提なのである。今回炎上中の彼の支出欄を見ると、どうやら学費は計算外になっているようだ。そのため、彼のシチュエーションにあわせるべく、学費を仕送り額から引いたうえで、実質月仕送り額(生活費)を見てみた。
学寮 | ||||
国立 | 公立 | 私立 | 平均 | |
仕送り額 | 628,300 | 829,500 | 1,398,400 | 1,237,800 |
学費 | 564,900 | 660,900 | 1,201,900 | 1,066,900 |
学費除月平均 | 5,283 | 14,050 | 16,375 | 14,242 |
下宿、アパート、その他 | ||||
国立 | 公立 | 私立 | 平均 | |
仕送り額 | 1,151,600 | 987,800 | 1,659,100 | 1,454,500 |
学費 | 623,700 | 626,700 | 1,374,500 | 1,090,900 |
学費除月平均 | 43,992 | 30,092 | 23,717 | 30,300 |
出所:平成28年度学生生活調査(独立行政法人日本学生支援機構)
こう見ると、一気に世界が変わる。彼と同じシチュエーションにし、Apple to Appleでの比較においては、なんと平均では月23,717円だけしか仕送りはないのである。そうなると13万円は明らかに高い(僕の学生時代も9万円>4.4万円と高い)。東京という地域性を考慮しても差は埋まらないであろう。
では違った統計データでみるとどうか。
例えば東京私大教連のデータでは仕送り額は2015年で86,700円だそう。少しリアリティのある数字だ。
(本論と関係ないが90年のバブルのラストは124,900円というのが恐ろしい)
2つの出所からは大きく違う数字になったものの、様々な統計調査を見るに、やはり万円単位で一桁台が一般的な水準のようだ。
では彼は「誰にも甘えられない環境」にいないのか
さて、ここまで見た結果、金銭面では彼は恵まれている、と言えそうだ。では、彼は「誰にも甘えられない環境」にいないのか。ネットで批判されてしかるべきであろうか。彼は「誰にも甘えられない環境に身を置く」と言ったあとに、どうやら「自分の裁量でさまざまなことを決められる」「責任感が強くなり、精神的に大人に」と書いている。つまり、あくまで”精神的に”甘えられない環境に身を置きたかったのであって、”金銭的に”甘えられない環境に身を置きたかったかどうかについては言及されていない。後者は述べられていないので分からないが、ただ決定することを増やすことにより、独立心を育むという点においては収入をある程度固定的にしてあげることで、成長するということは現実的には可能であり、ステップ論でいえば悪くない話なのだろう。